新リース会計基準の完全ガイド|経理担当者が今すぐやるべき準備と変更点のすべて

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2019年以降、適用が始まった新リース会計基準について、「何が変わり、何をすべきか」が分からず対応に悩んでいませんか。本記事は、そんな経理・財務担当者のための完全ガイドです。新基準の概要や目的、国際会計基準との関連性といった基礎知識から、最大の変更点である「すべてのリースの原則オンバランス化」までを新旧比較で分かりやすく解説します。結論として、新基準への対応はリース契約の網羅的な洗い出しと、新たな会計処理に対応する管理体制の構築が急務です。この記事を読めば、今すぐやるべき5つの準備ステップと実務対応のすべてが分かり、新基準が財務に与える影響まで正確に把握できます。

目次

新リース会計基準とは そもそも何が変わるのか

新リース会計基準のポイント:オンバランス化 従来の基準 資産 負債 ファイナンス リース リース債務 オペレーティング・リース 貸借対照表に載らない(オフバランス) 原則すべて計上 新リース会計基準 資産 負債 ファイナンス リース リース負債 使用権資産 オペレーティング リースも計上 オンバランス リース負債 適用スケジュール 2024/4/1 早期適用可 2026/4/1 強制適用開始

2026年度から本格的に適用が開始される「新リース会計基準」。経理・財務部門の担当者にとって、その影響は決して小さくありません。これまで当たり前だった会計処理が大きく変わるため、早期の理解と準備が不可欠です。この章では、新リース会計基準の基本的な概要と目的、そして「そもそも何が、なぜ変わるのか」という根本的な疑問について、分かりやすく解説します。

新リース会計基準の概要と目的

新リース会計基準(企業会計基準第13号「リースに関する会計基準」)とは、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した、リース取引に関する新しい会計処理のルールです。この基準の最大のポイントは、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリースも、原則としてすべて資産・負債として計上(オンバランス化)するという点にあります。

従来の会計基準では、リース取引は「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」に分類されていました。このうち、実質的に資産を購入したのと変わらないファイナンスリースは資産・負債として計上されていましたが、一般的な賃貸借契約に近いオペレーティングリースは、毎月の支払額を費用として計上するだけで、貸借対照表(B/S)には載らない「オフバランス取引」でした。

しかし、このオフバランス処理は、投資家が企業の財政状態を正確に把握する上で大きな課題となっていました。例えば、多額のオペレーティングリース契約を抱えている企業でも、その実態が財務諸表に現れないため、企業間の比較可能性が損なわれていたのです。このような背景から、財務諸表の透明性と企業間の比較可能性を高め、投資家の適切な意思決定に役立てることを目的に、新リース会計基準が導入されることになりました。

いつから適用?対象となる企業とスケジュール

新リース会計基準の適用時期と対象企業を正しく理解することは、準備を進める上での第一歩です。自社がいつから、どのような対応を求められるのかを正確に把握しましょう。

原則として、2026年4月1日以後開始する事業年度の期首から強制適用となります。ただし、準備が整った企業は、2024年4月1日以後開始する事業年度の期首からの早期適用も認められています。

主な適用対象は、上場企業やその子会社・関連会社、そして会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)です。これらに該当する企業は、連結財務諸表および個別財務諸表の両方で新基準への対応が必須となります。現時点では、中小企業に対する強制適用は見送られていますが、今後の会計基準の動向や取引先との関係によっては、対応を検討する必要が出てくる可能性もあります。

適用時期内容対象事業年度
強制適用すべての対象企業で適用が必須となる2026年4月1日以後開始する事業年度の期首から
早期適用準備が整った企業は先行して適用が可能2024年4月1日以後開始する事業年度の期首から

国際会計基準(IFRS16号)との関連性

日本の新リース会計基準を理解する上で欠かせないのが、国際会計基準である「IFRS第16号『リース』」との関連性です。結論から言うと、日本の新リース会計基準は、このIFRS第16号の内容を基礎として開発されたものであり、会計基準の国際的なコンバージェンス(収斂)の流れを汲んでいます。

IFRSは、世界中の多くの国で採用されている会計基準であり、グローバルに事業を展開する企業にとって、財務情報の比較可能性を確保するための共通言語となっています。IFRS第16号は、日本に先駆けて2019年から適用が開始されており、すべてのリースを資産・負債として計上する「単一の会計モデル(使用権モデル)」を採用しています。

日本の新基準もこの考え方を踏襲していますが、日本の会計実務に配慮したいくつかの差異も設けられています。例えば、後述する「短期リース」や「少額リース」の簡便的な取扱いについて、IFRS第16号では適用が強制される項目があるのに対し、日本基準では企業の任意適用とされている点などが挙げられます。このように、基本的な考え方は共通しているものの、細部においては日本独自のルールが存在することを理解しておくことが重要です。

【新旧比較】新リース会計基準の重要な変更点

新旧リース会計基準の比較図解 旧会計基準 新リース会計基準 ファイナンス・リース オンバランス 資産・負債計上 オペレーティング・リース (賃貸借処理) オフバランス 費用計上のみ 原則:すべてのリース 区分を廃止して一本化 オンバランス 使用権資産・リース負債 例外:短期・少額リース オフバランス 賃貸借処理OK ここが変更!

2019年3月に公表された企業会計基準第31号「リースに関する会計基準(案)」、通称「新リース会計基準」は、従来の会計処理を大きく変えるものです。特に経理実務に大きな影響を与えるのが、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースが原則として資産・負債計上(オンバランス化)される点です。ここでは、旧基準と比較しながら、具体的に何がどう変わるのかを分かりやすく解説します。

すべてのリースが原則オンバランス化

新リース会計基準における最大の変更点は、借手の会計処理において、ほぼすべてのリース契約が貸借対照表(B/S)に資産・負債として計上される「オンバランス化」が義務付けられたことです。これにより、企業の財務実態がより正確に財務諸表に反映されることになります。

使用権資産とリース負債の計上

新基準では、借手はリース契約の開始日に、リース資産を使用する権利を「使用権資産」として資産計上し、将来のリース料支払い義務を「リース負債」として負債計上します。具体的には、以下の会計処理が必要となります。

  • リース負債の計上:未払リース料総額を、借手の追加借入利子率などを用いて現在価値に割り引いて算出し、負債として計上します。
  • 使用権資産の計上:上記で算出したリース負債の計上額に、リース契約締結までにかかった付随費用などを加えて資産として計上します。

計上後は、使用権資産は減価償却を行い、リース負債は支払利息を認識しながら返済額を減額していく処理となります。

ファイナンスリースとオペレーティングリースの区分廃止

従来の会計基準では、リース契約を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、会計処理を分けていました。ファイナンス・リースは資産・負債として計上(オンバランス)されましたが、オペレーティング・リースは賃貸借処理として費用計上するのみ(オフバランス)でした。

新リース会計基準では、借手においてこの区分が廃止され、原則としてすべてのリースを単一の会計モデルで処理することになります。これにより、これまで費用処理のみで済んでいた店舗の賃借契約やコピー機のリースなども、資産・負債として計上対象となります。

リース区分旧会計基準新会計基準
ファイナンス・リース資産・負債として計上(オンバランス)原則としてすべて「使用権資産」と「リース負債」を計上(オンバランス)
オペレーティング・リース賃貸借処理として費用計上(オフバランス)

リースの定義の変更点

会計処理の変更に伴い、「リース」そのものの定義も見直されました。新基準では、契約がリースに該当するかどうかを、より実質的に判断する必要があります。

リースの定義は「特定の期間にわたり、識別された資産の使用をコントロールする権利を対価と交換に移転する契約」とされています。この定義のポイントは以下の2点です。

  1. 識別された資産の存在:契約の対象となる資産(例:特定の車両、特定のフロア)が物理的または契約上、明確に特定されていること。
  2. 使用をコントロールする権利:契約期間中、その資産の使用から得られる経済的便益のほとんどすべてを享受し、かつ、その資産の使用を指図する権利(いつ、どのように使用するかを決定する権利)を有していること。

この変更により、これまでサービス契約として処理していた契約の一部が、新基準ではリース契約に該当する可能性があります。例えば、特定のデータセンターのサーバースペースを占有して利用する契約などが該当するケースが考えられ、契約内容の精査が不可欠です。

簡便的な取扱いの概要

すべてのリースをオンバランス化することは、企業にとって大きな事務負担となります。そのため、重要性が乏しいリースについては、会計処理の負担を軽減するための簡便的な取扱いが認められています。

短期リースと少額リースの特例

以下のいずれかに該当するリースは、使用権資産やリース負債を計上せず、従来通りのオペレーティング・リースと同様に、リース料を費用として計上する簡便的な処理(賃貸借処理)を選択できます。

種類定義具体例
短期リースリース期間が契約開始日から12ヶ月以内のリース。購入オプションが付いている場合は対象外となる可能性があります。イベント用の機材レンタル(数日間)、仮事務所の賃借(6ヶ月)など
少額リースリースされている原資産そのものが少額であるリース。金額の絶対的な基準はなく、企業が重要性の観点から方針を定める必要があります。(IFRS第16号では5,000米ドル以下が例示されています)PC、タブレット、コピー機、オフィス家具など

これらの特例を適用するかどうかは、企業の会計方針として決定する必要があります。特に少額リースの金額基準については、監査法人とも協議の上、合理的な基準を設定することが求められます。

経理担当者が今すぐやるべき5つの準備と実務対応

新リース会計基準の適用は、これまでの経理業務を大きく変える可能性があります。特に、これまで費用処理のみで済んでいたオペレーティングリースが貸借対照表に計上されるため、影響は広範囲に及びます。しかし、事前に計画を立て、ステップを踏んで準備を進めることで、スムーズな移行が可能です。ここでは、経理担当者が今すぐ着手すべき5つの具体的な準備と実務対応について、詳細に解説します。

ステップ1 リース契約の網羅的な洗い出し

新基準対応の第一歩は、社内に存在するすべてのリース契約を正確に把握することです。これまでオフバランス処理されていたオペレーティングリースも対象となるため、各部署が個別に契約している賃貸借契約やレンタル契約なども含め、全社的な調査が不可欠となります。

契約書が各拠点や部署に分散して保管されているケースも多いため、経理部門が主導して、全社横断的なプロジェクトとして進める必要があります。調査にあたっては、以下の情報をリストアップし、一元的に管理できる台帳を作成しましょう。

項目内容収集のポイント
契約内容リース対象資産、契約の名称(賃貸借、レンタルなど)「リース」という名称でなくても、実質的に資産を使用する権利を得る契約はすべて対象となります。
契約当事者借手(自社)、貸手契約主体となる部署や会社名を明確にします。
契約期間リース開始日、終了日、解約不能期間更新オプションや解約オプションの有無とその条件も重要な情報です。
リース料月額・年額の支払額、支払スケジュール、変動リース料の有無固定の支払額だけでなく、売上歩合などの変動要素も確認します。
オプション情報購入選択権、更新選択権、中途解約権の有無と条件これらのオプションを行使する可能性が、リース期間の算定に影響を与えます。
関連費用維持管理費用、保険料、固定資産税などの付随費用リース料に非リース要素(サービスなど)が含まれているかを確認し、分離可能か検討します。

この洗い出し作業は、後続の会計処理方針の決定や影響額の試算の基礎となる、極めて重要なプロセスです。

ステップ2 会計処理方針の決定

リース契約の全体像が把握できたら、次に自社の会計処理方針を決定します。新リース会計基準では、実務上の負担を軽減するための簡便的な取扱いが認められており、どの方法を採用するかを事前に決めておく必要があります。監査法人とも協議の上、方針を固めましょう。

主に検討すべき方針は以下の通りです。

  • 簡便的な取扱いの適用判断
    「短期リース(リース期間が12ヶ月以内)」と「少額リース(重要性が乏しいリース)」については、資産計上せず、従来通り費用処理することが認められています。どの範囲までを「少額」とするか、自社の事業規模や資産の重要性を考慮した上で、合理的な金額基準を設定する必要があります。
  • 割引率の算定方法
    リース負債の計算には、現在価値に割り引くための「割引率」が必要です。原則は貸手の計算に用いられている利率(入手困難な場合が多い)ですが、実務上は「追加借入利子率」を使用します。これは、自社が同様の資産を同様の期間、同様の担保状況で借り入れた場合に適用されるであろう利率を指します。この追加借入利子率をどのように算定するかのルールを確立しておくことが求められます。
  • 非リース要素の取扱い
    リース契約に、資産の使用権(リース要素)と、保守メンテナンスなどのサービス(非リース要素)が含まれている場合があります。原則はこれらを分離して会計処理しますが、実務上の便法として、一体としてリース料とみなし会計処理することも認められています。どちらを採用するか方針を決定します。

ステップ3 リース管理方法の見直しとシステム対応

新基準の適用により、管理すべきリース契約の数が大幅に増加し、契約ごとに使用権資産の減価償却計算やリース負債の利息計算、残高管理など、複雑な計算と管理業務が発生します。

Excel管理の限界とリース管理システムの必要性

従来、多くの企業で利用されてきたExcelでのリース管理は、新基準下では限界を迎える可能性が高いでしょう。具体的には、以下のような課題が顕在化します。

  • 手作業によるミスの増大: 複雑な計算を手作業で行うため、入力ミスや計算間違いのリスクが高まります。
  • 業務の属人化: 特定の担当者しかメンテナンスできない複雑な管理シートが作られ、業務がブラックボックス化する恐れがあります。
  • 契約変更への対応の煩雑さ: 中途解約や契約条件の変更があった際の再計算が非常に煩雑で、多大な工数がかかります。
  • データ量の増大: 管理対象の契約が増えることで、ファイルの動作が重くなり、管理効率が著しく低下します。

これらの課題を解決し、正確かつ効率的なリース管理を実現するためには、リース管理システムの導入が極めて有効な選択肢となります。

プロシップなど専門システムの導入検討

リース管理に特化した専門システムを導入することで、新リース会計基準への対応を円滑に進めることができます。例えば、業界で高い実績を持つ株式会社プロシップの「ProPlus」をはじめ、様々なベンダーからリース管理システムが提供されています。

システム選定にあたっては、以下のポイントを比較検討することが重要です。

  • 機能の網羅性: 使用権資産・リース負債の計算、仕訳データの自動作成、契約変更時の再計算、開示資料の作成支援など、必要な機能が揃っているか。
  • 会計システムとの連携: 現在利用している会計システムとスムーズに仕訳連携が可能か。
  • 操作性とサポート体制: 担当者が直感的に操作できるか。導入時や運用開始後のサポートは手厚いか。
  • コスト: 導入費用(ライセンス料)と月額・年額の運用保守費用が、自社の予算に見合っているか。

早期に情報収集を開始し、自社の契約件数や業務フローに最適なシステムを選定することが、移行成功の鍵を握ります。

ステップ4 業務フローの再構築と社内共有

新リース会計基準への対応は、経理部門だけの問題ではありません。リース契約を締結する営業部門や購買部門、資産を管理する総務部門など、関連部署との連携が不可欠です。そのため、新しい会計基準に合わせた業務フローの再構築と、その内容を社内に周知徹底することが重要になります。

具体的には、以下のようなフローの見直しと整備を進めましょう。

  1. 契約締結前の情報連携フローの構築:
    各部署がリース契約を検討する段階で、契約内容を経理部門に共有し、会計処理上の影響(資産計上の要否など)を事前に確認するプロセスを定めます。これにより、契約後の手戻りを防ぎます。
  2. 契約内容の変更・解約時の報告フローの確立:
    リース期間の変更、中途解約、再リースなどが発生した場合、速やかに経理部門へ報告される仕組みを構築します。報告漏れは、会計処理の誤りや修正に直結します。
  3. 社内規程の見直しとマニュアル作成:
    新しい業務フローを「稟議規程」や「契約管理規程」などの社内規程に反映させます。また、各部署の担当者が参照できるよう、具体的な手続きをまとめた業務マニュアルを作成し、共有します。
  4. 関係部署への説明会の実施:
    なぜ協力が必要なのか、新しいフローによって業務がどう変わるのかを丁寧に説明する場を設けます。経理部門の負担だけでなく、会社全体の財務諸表に与える影響を説明することで、他部署の理解と協力を得やすくなります。

ステップ5 適用初年度の会計処理と開示準備

適用開始が近づいたら、初年度特有の会計処理と、有価証券報告書などで求められる開示情報の準備に取り掛かります。

まず、基準適用時の会計処理として、原則法(すべての期間に遡及適用)と、実務上の負担が軽い経過措置(適用初年度の期首から影響を認識)のいずれかを選択します。多くの企業では、実務負担を考慮して経過措置が選択される傾向にあります。この方針に基づき、適用初年度の期首時点における使用権資産とリース負債の残高を正確に算定する必要があります。これは、ステップ1で洗い出した契約情報と、ステップ2で決定した割引率を用いて計算します。

同時に、新たな開示要求に対応するための準備も進めます。財務諸表の注記情報として、主に以下のような項目の開示が必要となります。

  • 使用権資産に関する情報(資産の種類ごとの帳簿価額、期中の増減額など)
  • リースから生じる損益に関する情報(減価償却費、支払利息など)
  • リース負債に関する情報(返済スケジュールなど)
  • 短期リースや少額リースの簡便法を適用している旨とその費用額

これらの計算や開示準備は複雑なため、早めに着手し、必要に応じて監査法人に相談しながら進めることが賢明です。

新リース会計基準が財務諸表と経営指標に与える影響

新リース会計基準の影響まとめ 貸借対照表 (B/S) の拡大 旧基準 資産 負債 リースはオフバランス 新基準 使用権資産 リース負債 オンバランス化 総資産・総負債が両建てで増加。 自己資本比率の分母が大きくなる。 経営指標 (KPI) への影響 指標名 変化の方向 EBITDA 営業利益 + 減価償却費 増加 営業CF 見かけ上のキャッシュフロー 増加 自己資本比率 自己資本 ÷ 総資産 低下 ROA (総資産利益率) 利益 ÷ 総資産 低下 負債比率 (D/Eレシオ) 負債 ÷ 自己資本 上昇 ■ P/L・C/Fへの影響ポイント P/L費用:初期に費用が多く計上される「費用前倒し」が発生。 C/F区分:リース料の元本返済部分が「財務CF」へ移動(営業CFが増えたように見える)。

新リース会計基準の適用は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースが原則としてオンバランス化されるため、企業の財務諸表に大きな影響を及ぼします。これは単なる会計処理の変更にとどまらず、財務諸表を基に算出される経営指標にも変動をもたらします。ここでは、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)のそれぞれに与える影響と、主要な経営指標がどう変わるのかを具体的に解説します。

貸借対照表(B/S)への影響

新リース会計基準における最も大きな変更点は、貸借対照表(B/S)に与える影響です。これまで費用処理のみで済んでいたオペレーティング・リース契約について、資産と負債を両建てで計上することになります。

具体的には、将来のリース料総額を現在価値に割り引いた金額を、資産の部に「使用権資産」として、負債の部に「リース負債」として計上します。これにより、これまでB/Sに現れていなかったリース契約が可視化され、総資産と総負債がともに増加します。特に、店舗やオフィス、工場などを多数賃借している小売業、飲食業、製造業や、航空機や船舶をリースしている運輸業などは、B/Sが大きく膨らむ可能性があります。

【参考】貸借対照表(B/S)への影響イメージ
旧基準(オペレーティング・リース) 新基準
資産の部 変動なし(オフバランス) 「使用権資産」を計上(資産増加)
負債の部 変動なし(オフバランス) 「リース負債」を計上(負債増加)

損益計算書(P/L)への影響

損益計算書(P/L)においても、費用の計上方法が大きく変わります。旧基準では、リース料を「支払リース料」などの勘定科目で費用計上していましたが、新基準ではこれを分解して計上します。

新基準では、資産計上した「使用権資産」に対する「減価償却費」と、負債計上した「リース負債」に対する「支払利息」をそれぞれ費用として計上します。リース期間トータルでの費用総額に大きな差はありませんが、費用の内訳が変わり、計上されるタイミングも変化します

支払利息は、リース負債残高の大きいリース期間の初期に多く計上され、返済が進むにつれて減少していきます。その結果、リース期間の初期に費用が厚く計上され、期間の後半になるにつれて費用が減少する「費用前倒し」の効果が生まれます。これにより、リース開始初年度の利益が圧迫される可能性があるため注意が必要です。

【参考】損益計算書(P/L)への影響イメージ
旧基準(オペレーティング・リース) 新基準
計上される費用 支払リース料(期間中ほぼ均等) 減価償却費 + 支払利息
(期間初期に費用が多く計上される)

キャッシュフロー計算書(C/F)への影響

キャッシュフロー計算書(C/F)では、リース料支払いの表示区分が変更されます。これにより、キャッシュフローの構成が大きく変わって見えます。

旧基準では、オペレーティング・リースのリース料支払額は、全額が「営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)」のマイナス項目として扱われていました。しかし新基準では、リース料の支払いを利息支払部分と元本返済部分に分解します。

利息支払部分は「営業CF」のマイナス、そして元本返済部分は「財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)」のマイナスとして表示されます。その結果、これまで営業CFに含まれていた元本返済部分が財務CFに移動するため、見かけ上、営業CFが増加し、財務CFが減少することになります。企業のキャッシュ創出力の指標である営業CFが改善したように見えるため、財務諸表の利用者はこの会計処理の変更を理解した上で数値を分析する必要があります。

EBITDAや自己資本比率など経営指標へのインパクト

財務諸表の表示が変わることで、それを基に算出される経営指標も大きな影響を受けます。これは、自社の業績評価だけでなく、金融機関との融資契約における財務制限条項(コベナンツ)にも関わる重要な問題です。

主な経営指標への影響は以下の通りです。

新リース会計基準が主要な経営指標に与える影響
経営指標 計算式の変化 影響 理由
EBITDA
(利払前・税引前・減価償却前利益)
営業利益 + 減価償却費 増加 旧基準の支払リース料が、新基準では減価償却費(足し戻し対象)と支払利息(足し戻し対象)に変わるため。
自己資本比率 自己資本 ÷ 総資産 低下 使用権資産の計上により分母である総資産が増加するため。
負債比率
(D/Eレシオ)
負債合計 ÷ 自己資本 上昇 リース負債の計上により分子である負債合計が増加するため。
総資産利益率
(ROA)
当期純利益 ÷ 総資産 低下 使用権資産の計上により分母である総資産が増加するため。

このように、新リース会計基準の適用によって多くの経営指標が悪化したように見える可能性があります。特に、自己資本比率や負債比率などが財務制限条項の基準となっている場合、抵触するリスクがないか事前にシミュレーションし、必要に応じて金融機関へ説明する準備が不可欠です。一方で、国際的な企業比較で重視されるEBITDAは増加するため、グローバルな資金調達やM&Aの場面では有利に働く可能性も考えられます。

【Q&A】新リース会計基準に関するよくある質問

新リース会計基準の適用にあたり、多くの経理担当者が抱えるであろう具体的な疑問について、Q&A形式で詳しく解説します。特に実務で判断に迷いやすいポイントを中心にまとめました。

再リース契約や中途解約の扱いはどうなるか

新リース会計基準では、リース期間の算定が使用権資産とリース負債の評価に直接影響するため、再リースや中途解約の可能性をどう織り込むかが重要な論点となります。

再リース契約の会計処理

再リース(契約更新)については、当初の契約時点で「更新オプションを行使することが合理的に確実かどうか」を判断する必要があります。

  • 合理的に確実と判断される場合:
    当初のリース期間に、更新後の期間も含めてリース期間を設定します。その上で、使用権資産とリース負債を計算します。例えば、重要な生産設備で代替が困難な場合などが該当します。
  • 合理的に確実とはいえない場合:
    当初のリース期間のみで会計処理を行います。その後、実際に再リース契約を締結した時点で、それを新たなリース契約として会計処理を開始します。

この「合理的な確実性」の判断は、過去の実績や解約ペナルティの有無、リース資産の重要性などを総合的に勘案して、企業が主体的に行う必要があります。判断の根拠は、後から検証できるよう文書化しておくことが望ましいです。

中途解約オプションの会計処理

中途解約オプションについても、考え方は再リースと同様です。

借手がその解約オプションを「行使することが合理的に確実」と判断した場合は、解約可能となる日までの期間をリース期間として会計処理します。一方で、行使しないことが合理的に確実であれば、オプションの存在はリース期間に影響しません。

もし、当初の想定と異なり、リース期間の途中で解約することになった場合は、リース負債および使用権資産の帳簿価額を修正し、その差額を損益として認識する「リースの条件変更」の会計処理が必要となります。

税務上のリース取引との違いは何か

新リース会計基準の導入によって、会計上の処理と税務上の処理に差異が生じるため、注意が必要です。この差異は「税会差異」と呼ばれ、法人税の申告調整が必要になります。

会計上は、短期・少額リースを除きすべてのリースがオンバランス化されますが、法人税法上は、従来の「所有権移転ファイナンス・リース」「所有権移転外ファイナンス・リース」「オペレーティング・リース」という区分が維持されます。

主な違いは以下の表の通りです。

項目 会計(新リース会計基準) 税務(法人税法)
リースの区分 原則として区分なし(ファイナンス・オペレーティングの区別を廃止) 所有権移転、所有権移転外、オペレーティングの3区分を維持
貸借対照表(B/S)への計上 原則すべてのリースで「使用権資産」と「リース負債」を計上(オンバランス) 所有権移転外ファイナンス・リースやオペレーティング・リースは原則として資産計上不要(オフバランス)
損益計算書(P/L)への計上 「減価償却費」(使用権資産)と「支払利息」(リース負債)を計上 支払リース料を「賃借料」などの費用として損金算入

この結果、会計上は資産を計上していても、税務上は資産として扱われないケースが多く発生します。そのため、会計上の利益と税務上の課税所得が一致しなくなり、税効果会計を適用して「繰延税金資産」または「繰延税金負債」を計上し、法人税申告書で申告調整を行うという実務対応が必須となります。

監査法人への説明で準備すべきことは

新リース会計基準は、見積りや判断を伴う項目が多いため、監査法人に対してその合理性を客観的に説明できるかどうかが監査上の重要なポイントとなります。以下の点を中心に準備を進めましょう。

1. リース契約の網羅性に関する説明資料

「社内に存在するすべてのリース契約を漏れなく把握していること」を証明する必要があります。全部署へのアンケート調査、支払実績(勘定科目)からの抽出、契約書管理台帳との突合など、どのようなプロセスでリース契約を網羅的に洗い出したかを説明できる資料を準備します。

2. 会計方針及び見積りの根拠資料

会計方針や見積りについて、なぜそのように判断したのか、客観的な根拠を示すことが求められます。

  • 簡便的な取扱いの適用基準: 「短期リース」の期間や「少額リース」の金額基準をどのように設定したか、その妥当性の根拠。
  • リース期間の判断根拠: 再リースや中途解約オプションについて、「合理的に確実」と判断した、あるいはしなかった理由をまとめた議事録や稟議書。
  • 割引率の算定根拠: リース負債の計算に用いる割引率(特に、追加借入利子率)をどのように算定したかを示す資料。例えば、複数の金融機関から入手した類似の借入条件に関する利率情報などが客観的な証拠となります。

3. 内部統制に関する資料

新基準に対応するために、業務フローや内部統制が適切に整備・運用されていることを示す必要があります。具体的には、リース契約の識別、会計処理の決定、資産・負債の計算、情報開示までの一連のプロセスを可視化したフローチャートや業務規程、職務分掌表などが有効です。

監査においては、これらの判断や見積りが恣意的でなく、一貫した方針に基づいて合理的に行われていることを示すことが最も重要です。

まとめ

本記事では、新リース会計基準の概要から実務対応、財務への影響までを網羅的に解説しました。この新基準における最大の変更点は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリースを含め、すべてのリース契約が原則として資産(使用権資産)と負債(リース負債)として貸借対照表に計上される「オンバランス化」です。

この変更に対応するため、経理担当者は全リース契約の網羅的な洗い出し、会計方針の決定、そしてリース管理システムの導入検討といった準備を早期に開始することが不可欠です。特に契約数が多い企業では、Excelでの管理は限界があり、プロシップのような専門システムの活用が業務効率化と正確性確保の鍵となります。

新基準の適用は、自己資本比率などの経営指標に影響を与えるため、計画的な準備を怠ると、決算時に混乱を招きかねません。本記事で解説したステップを参考に、今すぐ準備に着手し、自社のリース管理体制を見直す好機として捉え、円滑な移行を実現しましょう。

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